才能のあるあなたへ

独り言の延長線上です

普通の大人になるために

昔の夢は高校の教師になることだった。

わたしにとって先生は絶対的なもので、そんな先生が言うことだから、全ての、所謂「普通」の大人たちが言うことが正解なんだろうと思って生きてきた。だから、普通の正解の手本になりたくて、小学校から高校三年のうつ病になるまでずっと教師になることしか考えていなかった。母は昔から「普通に生きることは、難しいことだけど、一番幸せなことなんだよ」と教えてくれた。「わたしは普通かな」そう聞くと、「ママが普通だから大丈夫」とだけ言われた。今思えばわたしは変わっていると思っていたけど言いだせんかったのかもしれない。

この世で一番すごいのは普通の大人になることで、両親に心配をかけないことだ。一時期歌が上手いと友達から褒められて歌手になりたいな、なんて思ったことがあった。それを伝えたら母は「あんたくらいの子はいっぱいいるし、稼ぎが安定してないからいいと思わない」と言った。普通の大人の母が言うのだ、正しいのだろう。わたしは歌手の夢をすぐに捨てた。絵を描くようになってからも、母から稼ぎが悪い仕事にはつくなと言われるんじゃないかと心配になって、せっかく買ったペンタブを一度使っただけで放置した。これ以上絵を描くのが好きにならないように。

今度は高校に入ってからの演劇だった。今までで一番楽しかった。知らない人間になれた。そいつらはみんな普通じゃなかったし、自由だった。でも演じてるわたしは自由なのか?ここで気がついた。親の敷いたレールの上を走っていただけだったんだと。このままいけば教育学部のある大学行きの列車がやってくる。乗らなきゃ。乗らなきゃ、乗らなきゃーーーーーー

 

 

学校に行けなくなった。誰にも会いたくなかったし、部屋から出たくもなかった。毎日死ぬことばかり考えた。

理由は?

見つからない

普通に生きてきたはずだったのにこんなところで脱線している場合ではない。

親にも親戚にも迷惑だ。周りの目が痛い痛い痛い。

 

 

 

一年経った。症状はだいぶ落ち着いた。

一人で東京へも行ける。好きなアイドルの追っかけも、すぐ辞めるけどバイトだってやってる。「大丈夫、すぐ治るから」ママだけがわたしの味方だった。ママの言うことだけ聞いていればなんとななると思った。でもわたしが遊ぶために使うお金は全部ママのお金で、家計は苦しくなってた。それでもママはお金をくれた。なんとかしたかった。そんなとき「被写体のアルバイトどうですか」というDMがきた。うってつけじゃないか。ラインを交換してと言われラインを交換して、話を聞いた。カップル撮影をするらしい。そしたらふと「君って処女?」と聞かれた。「はい」嘘はついてない。嘘は嫌いだから。「うちさあ、女優は積極的にセックスしなって言ってんの。君もうちのモデルの男貸すからセックスしな?ね?」何を言ってるかわからなかった。「あ、この子さ君のことタイプだって!じゃあファーストキスは俺がもらっちゃうね。でそのあとセックスの演技の仕方教えてあげるから、そのあとそのモデルの子とセックスしてあげてよ」

電話を切って泣いた。それに気づいた母に事情を話してその人との関わりを絶った。汚い大人を初めて経験した。苦しかった。気持ちが悪い。

 

その一件でまた一ヶ月くらい外出ができなくなった。完全に男嫌いになったし、ああわたしも普通には生きていけないんだな、って悟ってしまった。

わたしは未だに彼氏なし、処女。キスすらまだ。清らかなのに汚い女だ。

あのとき普通行き列車に乗っていれば、大学に通っているあの友達みたいにUSJの年間パスポートの自慢や彼氏と何ヶ月記念日やら誕生日サプライズありがとうみたいなことかけてたのかなあ。

普通を捨てて女優として生きよう。

そう決めても、舞台は甘くないだの、

まだ若いんだからだの、

まだわたしにレールの上に乗って欲しいのかい?

もうとっくにわたしの列車には誰も乗ってないよ。連れて行く人なんていない。

一人でいくのさ。あの日夢みてた普通の大人になるために。遠回りかもしれないけど。